「野鳥と私たちの暮らし」身近な鳩 キジバト

 キジバトは、草や樹木の種子が主食で、雛も種子で育てます。同じく種子を餌とするヒワ類は、硬い嘴で種子を割って食べますが、キジバトは種子を丸呑みにします。そのため、嘴はやわらかく、抜群の消化力で補っているのです。

日本に生息する多くの鳥は、子育てには栄養価の高いたんぱく質を得るために昆虫類が多く発生する春から夏の時期に集中して繁殖しますが、ハト類はピジョンミルクを雛に与えることで、秋から冬にも繁殖することを可能にしているのでしょう。同様にそのう乳で雛を育てる鳥は、フラミンゴやペンギンの仲間の一部で知られているのみです。

 また、哺乳類では雌親だけが母乳をつくり与えることができるのとは違い、ハト類では雌親だけでなく雄親もピジョンミルクをつくり、雛に与えています

 キジバトは、建物に集団で営巣するドバトとは異なり、糞などの害を人に与えることはありません。雌雄で一緒に子育てをする身近な鳥であるため、昔から幸運を呼ぶハトとされてきました。私の自宅のケヤキの木に巣を造ったことがあり、産卵から巣立ちまで約一か月間、2階の窓から子育ての様子を見せてくれた後、去ってゆきました。人の生活に上手くとけ込み、身近でひっそりと子育てをすることで、人とうまく共存している鳥といえるでしょう。

脚注:写真上下ともに茨城県那珂市在住宮本奈央子氏撮影。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB2024)

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